難しいの向こう側
『春と盆暗』という作品を読んだ。
その作品が、なんというか妙に引っかかるものがあった。
この単行本には短編の読み切り作品が4話載っている。
第1話第2話、と分けられていることから、この読み切り作品は単体の物語ではなく、全て共通のテーマがあると考えられるだろう。
各物語ごとに、一組の男女を中心に物語が描かれている。
物語の結末はその男女が付き合えてハッピーエンド、というものではない。
男子が女子を好きだ、とはっきり言っている描写は見当たらなかった。
せいぜい、いわゆる「気になっている」程度のものだけが感じ取れた。
特徴的だったのは登場人物の女の子、または男の子あるいは男女両人が独特な世界観を持っている、という点だ。
主人公のキャラクターが、その世界観に触れてあれこれ考え、行動する。
そして人間関係が少しだけ変化する、というところでストーリーは終わっている。
一回読んだ感想は、「何が言いたいんだこれ」である。
少年が憧れの女の子と付き合うわけでもない。
いじめられていた子のいじめが終わったわけでもない。
恋人と悲しい別れがあったわけでもない。
そして変わった世界観を持つキャラクターの世界観に丁寧な説明がされているわけでもなく、不可解なまま、物語が終わるのだ。
難しかった。というのが正直なところである。
僕はわかりやすい作品が好きだ。
好きだし、そういう作品を名作だと考えていた。
だが、難しいという感想だけでいいのか?
ただ自分が理解できなかっただけの作品に文句を言うことはカッコ悪くないか?
こういった声が自分の内側から出てくるようになったので、ここらで僕もなんとか成長のため、難解な物語を自分なりに解釈してみようと思ったのである。
僕は「男女とはお互いにわかり合えないものだ」というテーマを描きたかったのではないかと推察する。
男女は対岸の生き物、という言葉があるように、昔から男と女の間には深い溝があると考えられていた。
さらに思春期の男女ともなれば、なんだか変な考え方もしている時期である。
そんな男女はわかり合えない。この物語を読んだ僕と同じでわからないのだ。
だが、この物語のキャラクターたちは、以前の僕と違い、理解する努力をしている。
相手の世界を自分なりに解釈し、相手に寄り添う努力をするのだ。
そして、関係が変わる。それは素晴らしいことだ。
と言っているような気がする。
人間は誰からも理解されない一面がある
それを理解しようとする心とその行動に価値があるのではないか。
作者の熊倉献は言っているのではないか。
頭の悪い僕にはこの辺が限界である。
だが、読み終わった直後に抱いていたモヤっとしたものは晴れた。
考えさせられる作品というものも悪くないものだ。