世界を救うのは二流
どうか…どうか世界を救わないでくれ!
僕は漫画を読んでいると、こう思う時がある。
漫画で冷める展開のひとつに、「強さのインフレーション」というものがある。
主人公が立ち向かう障害が、回を重ねるごとに強大になっていく、という展開だ。
有名な例に『ドラゴンボール』がある。
物語の序盤は主人公・悟空とヒロイン・ブルマが、願い事を何でも叶えるというドラゴンボールを探す、というストーリーだった。
その道中に行く手を遮る敵が格闘家から軍人へ、さらには魔族、宇宙人、人造人間などなど…。
最終的には地球を救い、全世界のヒーローとなる、というものだ。
インフレの何が問題かというと、「拡大し続けるスケール感」にある。
ほとんど命懸けで敵を倒しても、またさらに強い敵が現れる、ということは序盤のほうに登場した敵はなんだったのだろうか?
最初は魅力的に見えたキャラクターがめちゃくちゃ噛ませ犬的に感じてしまい、興が削がれないだろうか?
そしてインフレを重ねた結果、大体が世界を救ってしまうのである。
特に格闘・アクション漫画に多い傾向にある。
『ドラゴンボール』はまだマシな方である。
僕が見たインフレで特に酷いと感じたものが2つ
『史上最強の弟子ケンイチ』と『エア・ギア』である。
2つとも大好きな作品であることは間違いない。
愛しているが故に惜しい、と思うところがあるのだ。
2作品とも狭いスケール感が魅力だったのだ。
『史上最強の弟子ケンイチ』はそもそも主人公が弟子、という最強とかけ離れた存在であるため、インフレが起こりにくいはずだ。
町の不良を人知れず倒していく、というストーリーも救世のヒーローとなる展開から程遠い、と思っていた。
しかし、順調にインフレを起こしてゆき、最後の方は人を殺め得る実力をつけていってしまった。
『エア・ギア』は空を飛べるローラースケートのような「エア・トレック」を履いた不良チーム同士の走り合い、というストーリーだった。
だが、こちらもやはり、人を殺め得る実力をつけ、地球を救った。
何故、このような現象が起こってしまうのか。
それは週刊連載(または月間連載)という特殊な環境がそうさせるのだ。
漫画を描いている作者もそこまでストーリーがでかくなる予定ではなかったのだろう。
しかし、週刊連載で人気が出てくるとなると、5年や10年の長さは珍しくない。
さらに「先週より、前巻より売れねば」と思うあまり、スケールが大きくなってしまうのではないか。
アニメや映画はある程度、リミットがあるためインフレは、そう起きないのだ。
今日もどこかで漫画のインフレが起きているかもしれない。
そう思うと僕は「どうか…どうか世界を救わないでくれ!」と強く願うのだった。